出版労連の「東京都の青少年健全育成条例の改訂に反対する要請」全文

出版労連 - 出版および出版関連産業に働く人たちが集う、産業別労働組合
http://www.syuppan.net/
要望と問題点が完結にまとまっている文章だったので、全文引用します。元の文章がWordで書かれているために、簡単に確認が取りにくいため引用させていただきました。問題等有りましたらメールにてご連絡ください。

mail:john4126@hotmail.com


原文ファイルはこちら
http://www.syuppan.net/modules/smartsection/item.php?itemid=114


2010年3月12日

東京都議会各会派 御中
東京都議会総務委員会所属議員 各位


青少年条例の改定・強化に反対してください(要請)



 私たち日本出版労働組合連合会は、出版社、取次、書店、専門紙、フリーランスなど出版関連産業に働く労働者約6000人で組織する唯一の産業別労働組合です。1958年の結成以来、憲法で保障された「言論・出版・表現の自由」と「流通の自由」は、出版産業の存立・発展を保障する最も重要のものと位置づけています。それは、戦前の言論統制が招いた悲惨な戦争やあまたの犠牲の反省に立つものでもあります。
 私たちは、表現活動は基本的に自由であるべきと考えています。したがって、行政措置としての図書規制には反対であり、東京都の「不健全」図書指定制度を容認する立場にはありません。ただ、1964年に制定された東京都青少年条例は、他の自治体の条例とは異なり、事業者による自主規制の尊重を明記する希有な条例として、様々な問題はありつつも事業者や規制強化に反対する市民、労働組合などの監視・要請を受け、それなりに謙抑的に運用されてきたことに一定の評価をもっていました。
 ところが、2004年の条例改定後、青少年条例の担当部署が従来の生活文化局から新設された青少年・治安対策本部に移管されたことで、青少年問題の取り組みが福祉的対応から取締りを基本にした管理的対応に変化したと認識せざるを得ないものとなりました。
 このほど、東京都議会に提出された青少年健全育成条例の改定案は、2004年来の方針転換(さかのぼれば1999年にその萌芽があった)をさらに推し進める内容であり、私たちの危惧が杞憂ではないことがはっきりしました。しかも、図書規制のみならず、市民個々人に対する規制(個人規制)にまで踏み出そうとするものだと、認識せざるを得ません。
そもそも、青少年・治安対策本部が条例改定を目指す根拠とした、第28期青少年問題協議会は、従来公開で行われていた会議が総会と拡大専門部会を除いて、傍聴を許さないなど密室的に進められたもので、起草委員会の議事録はいまだ公開されていません。このように、今回の条例改定案は議論の内容において、また上程に至る経過にも不透明な点が多々あり、民主的な運営とはいえません。
以下、出版産業で働くものとして、また、言論・表現活動に直接携わる立場から、青少年条例の改定案について、その問題点を下記のとおり具体的に指摘しました。
都議会議員の皆さまにあっては、慎重なる審議のもと、ぜひとも条例改定案に反対してくださいますよう要請いたします。


1.「非実在青少年」の描写にかかわる「不健全」指定制度及び「表示図書」規制の新設について


 法と道徳を一体化し、表現の自由を侵害する「不健全」図書指定制度の拡大に反対します。「非実在青少年」にかかわる性表現を新たな「不健全」指定の事由に追加するとした改定案第五条の二第2項及びこれに連動した「表示図書」の規制にかかわる第九条の二第2項は、表現に対する「内容規制」をいっそう推し進めるものであり、新設を認めないで下さい。


(1)図書規制は、公権力の憲法遵守義務に違反します
(2)条例を改定する理由を見いだすことはできません
(3)創作表現における登場人物の年齢確認はどのように行う?
(4)条例改定の根拠とされた青少協の議論の中身と委員の偏りに疑念があります
(5)「非実在青少年」なる概念を「表示図書」に強制することは容認できません
(6)国会の審議でも、創作物の規制に疑義が出ています


2.「表示図書類に関する勧告等」にかかわる条文について


 出版業界では「R18」等を表示した出版物は、成人向けコーナーなどで区分陳列(ゾーニング)を行っています。これは、あくまでも業界団体や出版社が自主的な判断のもとで行っているものです。にもかかわらず、公権力が出版社や自主規制団体に「自主規制」を行うよう勧告し、従わない場合、公表するというのは、「不健全」図書指定による販売規制以上の効果を有しかねない、実質的な「権力規制」となってしまいます。また、前項の指定事由の追加同様、憲法上の表現の自由を制限する条項であることは明らかです。第九条の三第2項〜4項の新設を認めないで下さい。


(1)表現の自由を侵害する「内容規制」を容認できません
(2)「自主規制」の悪用が危惧されます


3.児童ポルノにかかわる条項について


 すでに、現行児童ポルノ処罰法によって、いわゆる「児童ポルノ」の取締りが行われており、東京都が条例化して規制を行えば屋上屋を架すことになります。また、国会においては、児童ポルノ処罰法の改定案が上程されたものの、法務委員会の審議においては「単純所持」の処罰化の導入などに疑義が呈され、また、3号ポルノの定義など現行法のあいまいさが指摘されているところであり、これらの問題点を捨象する条例改定は容認できません。国会の動きを静観し、改定案の第三章の三「児童ポルノの根絶に向けた気運の醸成及び環境の整備」の条項すべてを削除して下さい。

(1)国会審議では自民・公明党改定案はもとより、現行児童ポルノ処罰法の問題点も明らかになっています
(2)条例改定案は、法と道徳の分離を蔑ろにしています
(3)拡大解釈を可能にする不自然な条文があります


4,ネット規制にかかわる条文について


 出版各社とかかわりの深いケータイ小説やデジタルコミックは青少年の日常に浸透し、生活の一部にもなっています。条例による規制によって、青少年のこれらのメディアとの接触機会が損なわれてはならないと考えます。
 一方で、ケータイマンガなどを事業化している出版社で構成するデジタルコミック協議会は、「18禁」マークを制定し、区分販売の態勢を整えたものの、携帯キャリアの公式サイトでは大人への販売そのものが困難な状況となっていると聞いており、条例強化によって、(条例が関知しないはずの)大人への販売がいっそう厳しくなる事態が予想されます。
 青少年のメディアとの接触機会を保障すること、事業者の活動を阻害しないことに留意すべきだと考えます。
 携帯キャリアやネット関連の自主規制団体からは、改定案は憲法違反の条項があるとの指摘もなされていると聞いています。過激な規制を行うべきではありません。


5.改定案全体の問題点について


 現行の条例では、「青少年にとって不健全」という前提のもと、「有害」の用語の使用を排除しています。実際には「有害広告物」の条項に使われているだけでした。ところが改定案では、ネット規制児童ポルノ規制にかかわる条文に、固有名詞(法律名)とは別に、「有害」の用語が挿入されていました。1964年の条例制定時の都議会の議論を踏まえるならば、特定の価値観を反映した「有害」の用語は使うべきではありません。言葉だけの問題のように見えますが、規制範囲の安易な拡大だけでなく、条例の変節を追認することになってしまいます。あらためて、「不健全」の用語が使われている意味合いを再確認してください。


6.現行条例の不備とそれに付随する問題について


 私たち出版労連は、2003年12月17日に第25期東京都青少年問題協議会各委員並びに東京都に宛てて、「自主規制型条例を堅持し、慎重審議を求める要請書」を、2004年2月2日には都知事に宛てて「第25期東京都青少年問題協議会答申に対する意見」を提出し、その際、「不健全」図書指定の可否を審議する健全育成審議会の全面公開、「不健全」指定の取り消し・異議申立手続きの整備、国連・子どもの権利条約にもとづく子どもの意見表明権の尊重も同時に求めています。これらはいまだ実現していません。また、従来、傍聴が認められていた青少協の会議が、今期は総会と拡大専門部会を除き、全面非公開となりました。密室審議の結果、異常な答申がまとめられてしまったといえます。条例改定案の審議に際しては、以上の事柄を精査し、諸手続の整備、徹底した情報公開を是非とも実現して下さい。


(1)指定処分取り消しの手続きの不備を改めるべきです。
(2)密室審議となっている青少年問題協議会や健全育成審議会の運営を改めるべきです
(3)当事者たる青少年の声を聞いてください


 以上の点をご考慮いただき、「言論・出版・表現の自由」と「流通の自由」を侵害する条例強化に反対するとともに、条例の不備を正して下さるよう要請いたします。